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悲しみの終着点は歓びへの執着さ

- 『目が明く藍色』 / サカナクション

誰もが皆自分らしく手を繋げたら:『スローループ』2巻

Category: 漫画 布教 感想 考察

嘗て1人静かに釣り糸を垂らしていた少女は、また新しい出会いを経る。

8話より

自分の好きなことを隠していた少女は、自らのその秘密を友達へ打ち明ける。

12話より

「おじさんがパンケーキ食べたって良い」。
女の子が釣りしたって良い」。
そんな当たり前のことを、自分に自信がもてなくて、また周囲の何気ない一言で、時に当たり前と思えなくなるかもしれない。
でも、好きなモノを好きな時、好きなように楽しめる家族が、友達が、ここにいる

2巻表紙

それが『スローループ』だ!

まんがタイムきららフォワードで連載中。「人×釣り×人」の繋がりを大事に、そしてあたたかく描く物語。
そんな『スローループ』の2巻の話を、発売からちょっと間が空きましたが改めてつらつらと書きます。
主に2巻収録回(7〜13話)の記事ではあるものの、今回はまた感想だけでなく布教記事としてもなるべく機能する形でまとめますので、まだ本作をご覧になっていない方にこそ読み進めてみていただきたい。
その魅力は基本的に公式の試し読みCOMIC FUZで充分伝わるかと思います。散々言っていますが、ボクは1話からその地力ある物語に打ち抜かれたクチです。
とは言え1話の魅力をより味わうための一助として、微力ながら念には念を入れてボクが1巻発売当初に書いた1話重点の布教記事も一応添えておきます。何卒ご参考にどうぞ。
もちろん既に「2巻を読んでる」とか「きららフォワードで毎月追ってる」って方にも、その魅力を少しでも再確認できる記事を目指していきます。

釣りと友達

主人公の1人である釣り好きの少女・ひより。
元々、実の父親である信也や幼馴染の恋などの背中に隠れたがる引っ込み思案だった彼女は、父親を失った悲しみから余計に塞ぎがちになっていました。
その内向きさたるや、本作の1話冒頭でも1人ぽつんと海辺で釣竿を握って座り込む背中を見せるほどでしたが、そんなひよりは8話にて初登場した小学5年生の少女・福元二葉に、11話で「友達になりませんか」と意を決して吐露するまでになりました。
両親の再婚によって姉となった小春が釣りに興味を示してくれたことに始まり、皆でやる釣りも楽しいと思い出したり、アルバイトの経験などもあって人見知りを徐々に克服しつつあったりと、精神面での変化が2巻でも多分に見られます。

一方でひよりの友達となった二葉は、自分の「好き」に関して悩みを抱える人物。
出会ってすぐは「女の子が釣りやってるのって恥ずかしくないんですか?」とひよりへ問いかけるほどに思い詰めていた子でした。
しかしその彼女もひよりたちと共に釣りをする中で自らの悩みを振り切り、またひよりとの仲を深めたこともあって「また一緒に釣りに行こう」と約束する他方、自分の趣味を同級生である友達・藍子にも明かします。

13話より

既にあった関係性はより堅くなり、新しい関係性も生まれていく。
「釣り糸で繋がるガールズストーリー」という単行本裏表紙のキャッチコピーは、まさに伊達ではありません。

釣りと家族

1巻は釣りを通じて打ち解けていくひよりと小春の姉妹や、海凪家の面々を主軸に展開されました。
2巻では、ひよりの幼馴染であり海凪姉妹を見守る恋の一家や、先述の二葉とその姉・一花の間柄も描写されてきます。

吉永恋は普段母親がいない一家の面倒事を引き受ける苦労人。
「世捨て人」を自称するほど釣り中毒の父親がいて、彼に対しては凡そ嫌悪と言って差し支えないくらいの心境を隠していません。
が、恋の誕生日を祝うために帰ってきた母親から、恋自身の尊敬している母親の姿が父親によって守られていた過去を知らされることに。
それがきっかけとなってかならずか、恋も心のどこかでは父親を憎からず思っている様子を垣間見せてくれます。
6話で自分たちを決して仲の良い親子ではないと評していた恋ですが、複雑な問題こそあれどその家庭もまたあたたかいモノだったのです。

8話より

また、福元一花は妹の二葉の側にずっと立ち続ける良き姉馬鹿
二葉にとっては堂々として魅力のある「特別」な存在でもあるようです。
一花はいつからか釣りに関心を示さなくなった妹を見守りながら、妹のことを「何も知らなかったんだなって思い知らされた」と述懐しました。
それでも二葉を溺愛し大切に思ってきた一花は、小春や恋、親のあたたかさに支えられてきたひよりの言葉に救われ、二葉からもプレゼントと共に感謝を伝えられます。
ひよりと小春のやり取りを前に「いい姉妹だな」と口にした一花自身が、二葉と築いていた優しさに溢れる姉妹関係も必見。

誰もが皆自分らしく手を繋げたら

分かり合えないモノは分かり合えないと割り切ることは、ストレスフリーで適切な他者との関係性を保つ上で1つの策です。
そんな現実を見据えながら、相手のことが分かるか分からないかとまた別に「認め合って一緒にいる」という理想を願う。
「人×釣り×人」を描くスローループが2巻掲載分のエピソードで導いた結論は、これなのではないかとボクは思っています。

13話のサブタイトル「ちゃんと選んでるよ」の通り、二葉と藍子はきちんとお互いの「好き」を貫き通した上で手を繋ぎ、その仲を深めていきました。
そんな二葉を見守りながら、きょうだいを「近い存在のようで一番遠い存在なような気がする」と語った一花は、妹の意志を尊重しつつ姉として誰よりも味方でいると再確認しました。
達観した視点をもつ恋も、父親を疎んじる一方で決して心の底から嫌うようなことはせず、(3人の弟までいる)吉永家の屋台骨としての役割を果たし続けています。
また、自分の趣味を藍子に明かす勇気がなかった二葉の背中を押す際、恋が意見の食い違う小春とも足並みを揃えるように、二葉の意向を受け止めて一策提案するシーンもあります。

家族に留まらず様々な人間関係を物語の中で取り扱い、その現実と理想へ誠実に向き合うことが、本作『スローループ』の大きな魅力の1つである。
そう、ボクは信じてやみません。

終わりに:本文から溢れたあれこれ

1話で1人静かに海へと釣り糸を垂らしていたひよりが、今日現在の最新回である14話でどうなったかと言うと……

↓Before

1話扉絵

↓After

14話扉絵

前に小春、後ろに恋、二葉、一花。
共に釣りをする人たちがどんどん増えてきたなと改めて実感でき、グッときます。今見比べると(不覚にもちょっと涙腺が緩むくらい)壮観。
14話の扉絵(After)は2巻掲載回から外れているので文字通り泣く泣くこっちにもってきましたが、こんな2枚の綺麗な扉絵が、本編を読むと大きな感動をもたらしてくれますよ。
ボクが1巻の頃個人的に望んでいた海凪家の両親側も徐々に描写が出てきたりもして、更に見どころは増えるばかりです。

というワケで、単行本のリンクをここに張っておきます。
本記事はここまでにかなりのネタバレを含んでいますが、それは言葉を尽くしても実際に漫画という媒体で見た時の魅力は全く損なわれないと確信しているからなので、気になった方は是非お手に取っていただければ幸いです。
スローループ (1) - Amazon
スローループ (2) - Amazon

ついでに:ほぼ既読の方々しかターゲットにしていない小ネタ

本作は登場人物の感性を丁寧に描いていることも1つの特色である、と1話重点の紹介記事でも書きました。
その中でも、小春の感性はとりわけユニークです。
例えば度々ゲームが話題に出てくる(1話での「釣りをゲームでやってた」発言や9話の「(イソメが)アクションホラーゲームに出てくる雑魚敵みたい」など)のは、病弱ゆえにインドアな遊びしかできなかったのであろう過去を想像させてくれます。

そんな小春、8話ではマグロの兜焼きを「討ち取った武将の首」と形容したり、11話で金アジを「古代ローマの貴族みたい」と準えたりしていました。
勉学の面で文系寄りであることが12話から分かる小春は件の回で英語の堪能さが強く打ち出されていましたが、もしかして歴史にも結構親しみを感じているのではないか?
また、もう1つの傾向として認められる「死後硬直(1話)」「人間で例えると火あぶりの刑(6話)」「フィッシング詐欺(13話)」などの犯罪臭漂う想起もまた何かパーソナリティと関連があるのか?
ボクは密かに、そんな一見しょーもなさげなところも気になっています。

既読者向けの13、14話感想にはそんな重箱の隅ネタも大量に突っ込んでいるので、こちらもよろしければどうぞ。
そして本作をご覧になった方の感想も、好きな作品を自分なりに必死こいて読み込み分析したがるボクは人一倍楽しみにしています。

Written on 2019/10/21