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悲しみの終着点は歓びへの執着さ

- 『目が明く藍色』 / サカナクション

とある絵描きが巡る逃避行の旅路はここに終わりを告げる:『旅する海とアトリエ』22話

Category: 漫画 感想

テーマの一つである旅との親和性もあってか、登場人物がとかく内心の整理に逃避をしがちな本作。
しかし、別に逃げることそのものが悪いワケではありません。
何よりそれが、向かうべき目的地を見出したり、あるいは思い出したりするためであるならば。

というワケで……
ようやく一段落な回がやってきましたね……しばらく不穏な引きが多かった海リエも……
まあメタ視点での懸念が尽きていないので、個人的に100%安心とまではまだ行かなかったりしますが。
そんな海リエ22話の感想を、今回もつらつらまとめていきます。

様々な物事から逃げ延びてきた登場人物たち

思うように写真を撮れなくなった現実から逃げていたエマさん。
本当は好きなハズの服飾に対し、失敗をしたショックで距離を取ろうと逃げていたマリアさん。
ナタリアにフラれた(言い方)弾みでいもむしと化し、布団の中に逃げていたアンナ女史。
そして、母親の影響で絵を描くことに対する思いが揺らぎ、その元凶からずっと逃げて延びていたりえちゃん。

以前の感想でも書いていたように、逃避の原因が当人にあるケースは自身の意識次第でどうとでもなる分軽い傷で済んだり、偶に重くなっても問題としては単純だったりします(エマリアコンビ)。
しかしこれが他者に端を発するケースだと重傷化も複雑化も起こりやすいもので(アンナ女史とりえちゃん)……

筆を折るために旅を始め、海さんと連れ立ちながら絵を描く楽しさを少しずつ思い出し、それでも尚「自身の意思に見向きもしない母親」という現実を直視できずにいるりえちゃん。
海さんと一緒にいるからこそ絵描きに戻り、海さんと一緒に絵を描きながら旅を続けることしか考えたくないと述懐するその姿は、やはり未だに問題が根深いことを感じさせます。

ここに(意図的かどうかは分かりませんが)意味のない絵を描く機会を提供したアンナ女史は今回屈指のファインプレー。

勇気を出せばいずれ状況は変わる、一時は悪化するとしてもいずれ好転する

そのアンナ女史、他者=ナタリアに端を発している、と先述はしましたが、それでもりえちゃんに比べればまだ軽傷なんですよね。

第一に、アンナ女史はきちんと「辛いことを打ち明けられ」るとりえちゃんから評され、羨まれる人物です。本質的には感情の強い、そしてはっきりした性格なワケで。
第二にナタリア側のスタンス。アンナ女史側の抱える問題点を懸念しつつも、彼女が何かしら核心に触れるのを「待ってた」辺りからしても、気立ての良く優れた好人物です。
だからこそアンナ女史はアンナ女史でナタリアへの思いを引き摺り、いもむしになってでもすれ違いの理由を教えて欲しいと願ったんでしょう。離れていようと根本的にはその絆が揺らいだりはしていなかったのですから、(実際のベクトルはどうあれ)一定の恋人らしさを見出されているのも納得。

そして今回アンナ女史の勇気に花を添えたのが、自身のファインプレーに対するお礼の意味も込められている、同じく自分の心情に区切りをつけたりえちゃんの絵とは。
4人の並びが海さん、りえちゃん、アンナ女史、ナタリアの順になっているのもまた示唆的な気がしてきます。海りえコンビとナタリアンナコンビの置かれた状況はそれぞれ一歩前進し、同時にその架け橋になったのがりえちゃんとアンナ女史の繋がりだったのですから。

海さんの言葉とりえちゃんの今描きたい絵

描きたいと心で思った絵。やりたいと心底思ったこと。他者にまで力をもたらすのは、いつだってそういう「心の底から湧き上がる」モノです。

22話より

海さんに対して「私何もしてないのに」と語るりえちゃん。
この言葉を見た時、ボクは12話の海さんを思い出しました。

「りえさんはわたしと一緒に旅がしたいって言ってくれたんです でもわたしには (中略) 誰かを笑顔にできるものは何もないから わたしでいいのかなって思うときもあります」

2人とも同じです。自己評価が低い一面。
それにりえちゃんが絵を描く時の苦しみは母親を元凶としていますが……海さんが自分の名前を嫌い出したのも他者の影響(いじめ)でした。
海さん自身知ってか知らでか、りえちゃんの痛みに寄り添えるだけの経験――お節介のための力をもっていたことになるんですね。
それを踏まえて見る、海さんの「この旅が終わってもずっと 誰かにとって意味のない絵だって描いていいんですよ」という言葉……実感の籠もり具合は言わずもがな。
海さんは最初から自分のために、もっと言えば他の誰のためにもならない動機で旅を始めた人物です。自身から見て「誰かを笑顔にできるもの」をもっており、更に「一緒に旅がしたい」とまで言ってくれたりえちゃんが、自由に絵を描くことのできない状況に陥っていたとなれば、見過ごすなどあり得ないでしょうね。

自分になくて相手にあるモノを、海りえ両者が必要としている。
今はきっとそれだけで、無限大の力となるハズ。
りえちゃんが辿るここから先の旅はきっと今度こそ、自分の描きたい絵を只管巡る道です。

終わりに

ここ数話は闇っぽい部分や冷たさが鳴りを潜め、素の優しさ全開だった海さん。しかし性懲りもなく邪推してしまうボクもまたいて……
「今は」無限大の力となる、という条件づけもなんですが、前項を改めて咀嚼してみると、ナタリアによって指摘された「信仰」心は海→りえの感情にも含まれているんじゃないか、と。
この点はまた別ベクトルな危うさの可能性として、ちょっと頭の片隅に置いておこうと思っています。

そして何より、今回りえちゃんとアンナ女史それぞれの歩みに一区切りついたワケですが……もう1つ絶対に触れたかったポイントがありました。
海さんの絵にかかってるアレです。

自重してくれモザイク!!!感動的な回なんだから!!!!!!!

(満面の笑みで腹を抱えながら)

Written on 2020/06/19