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- 『銀河』 / フジファブリック

ルームメイトは共に歩む唯一無二のパートナー:『こみっくがーるず』原作88話

Category: 漫画 感想

「三本取られた」。これが今月のこみがに対する率直な感想でした。
姉の背中を見ながらまんが家にも憧れ、姉を追って寮にやってきた美姫が、姉へ倣うように背水の陣でまんがと向き合う。
またその結果に(予期しようと思えばできたとも感じますが)予期せず絡んできた、ルームメイトのくりす。

あるいはボク自身、こみっくがーるずという作品を「表現者個人個人の物語」と捉えてきた中で、それに対する新たな切り口での解答とも言える決着。
色々な意味で、今回のこみがはブレイクスルーだったなと思わずにいられません。
それも、ボクがこみがに陥落したあの回に並ぶほど素晴らしかったと思っています。

一本目、いつものくりすがいない時の美姫

琉姫「くりすちゃんなりに美姫のこと考えてくれてるのね」
美姫「そうかもしれないけどやりにくすぎ……」

真面目モードなくりすを直に見るのは、美姫側からすれば久々のことです。少し前にくりすから渡された手紙を通じてその一端には触れていたものの、そこからおとなしい部分に再び慣れる兆しを得られたかと言えば土台無理な話で。

その美姫がまんが家としての道全てを賭けて新作に挑む、P31-5から始まる12コマ。
miki先生の意気込みや、それでも不安なmiki先生を解してあげる寮生たちの様子を、台詞なしで端的かつ淡々と描いていくのももちろん感慨深いものでありつつ、
P32のラストではでかけていて不在のくりすに不満そうな表情を見せる美姫。これがくりすに対する今の思いなんだなとグッとくる一幕でした。
くりすを一度本気で突き放し、そののち初めて自分に向けられた思いの全容を知った今だからこそ、美姫もくりすを心から憎からず思うようになっていった
それが分かる(しかもこの上なく美姫らしい)姿として、P32-8の表情は特筆すべきでしょう。かおす先生の満足げな感じも頷ける。

二本目、筆を折る覚悟とそこに送られた視線

主要登場人物で最年少タイなことに加え、姉である琉姫さんのせいもあり、意に沿わない現実から何かと遠ざけられている一幕も多かった美姫。
それを不本意とし、自分の置かれた現状を「実力」と言い切った背中は、まさにプロの矜持を有していたと評すべきでしょう。やっぱり周りは過剰に子供扱いすべきじゃなかったんだ……
完璧(には及ばないとしてもそれ)を目指そうと精魂尽くす姉の影響があったとは言え、こうした形での強さはmiki先生ならではです。

で、そんなmiki先生を見守る寮母さん。
進路に悩んだV先生やフーラ先輩、担当さんからの信頼を得られているのかと不安を溢したかおす先生に的確な言葉を差し延べてきた寮母さんでも、これほど険しい顔を覗かせるのだなと衝撃を受けました。
ですがそれも納得のいくモノではあります。
寮母さん自身が、嘗てプロの重責に耐えかね作家の道を退いた人物だから。
更に言えば寮母の職に就いている以上、売れっ子へと成長した作家の陰で自身と同じように作家を諦めた後進の寮生たちも数多く見てきた(であろう)から
ゆえにこそ重みが違う……そう思わせてくれるのがP34-8。直後の「かっこいい」という一言も、プロであることに押し潰されて筆を折った寮母さんが、プロであるからこそ筆を折る覚悟を見せたmiki先生に向けて口にする言葉なだけに強く響いてきました。厳しくも美しい対称性です。
また、V先生の一件ではプロとして執筆を続けている寮生たちに敬意を表した寮母さんが「寮生たちと同じ一人の人間である」ことを示す場面として、これまでで最も印象的だと断言できます。

一方で寮母さんの言葉を受け、寮でまんがを描いてきたことに「悔いはありません」と語ったmiki先生も、やはり悔しさがないかと言えば決してそうではないようだったのですが……

三本目、閉ざされかけた道を切り開くのは――

オリジナルを描くポテンシャルが花開くまであと一歩の場所にいつつも、miki先生はずっと足踏みを続けていました。
当初から特に作画面では課題を抱えており(ここについてはmiki先生自身自覚している節が先月でもあり)、加えて得意ジャンルに拘ったのもあってか編集部側のハードルを余計上げてしまい、読者からもその不安定さを指摘されたmiki先生。
頑な(と言っても無意識下だった可能性は拭えませんが)な執筆方針が良い結果に繋がったとは、必ずしも言い切れなかった。

そんなmiki先生の隣にはしかし、お互い自分にないモノを羨みながら、知らず知らずのうち足並みを合わせて歩いてきた相手がいたのでした。
同い年ながら既に花のある作画を武器とし、全く別ジャンルのまんがにおいて実績を積んできていた人物であり。
オリジナルにおいては何を描いても頓挫する自身と比して、誰より間近でmiki先生のポテンシャルを認めてきた人物でもあり。
ルームメイトであり指折りのmiki先生ファンでもあり、今回のエピソードで名実共にパートナーの立ち位置を確立した、彼女の名は私部くりす。

思い返せば前話でmiki先生がこの掲載を最後の挑戦と決めた時、一人異を唱えようとしたのがくりすでした。
無二のルームメイトがよもや寮を出ていくかもしれない、そんな決断に戸惑った結果が、美姫に一人でまんがへと集中してもらう狙いであり、またよもやのことがあった際には美姫の力になれるよう備えておく行動だったワケです。
ちょっと脱線してしまいますが、この展開は若干賛否両論を招き得るモノなのだな、と何となーく感じるところでもありまして。
というのも、絵師をされている近しい読者は一連のシークエンスを見て「作画の部分でお役御免とされたようなものでもあるんじゃないか(意訳)」と話していました。実際問題このポイントも重要であり、そういう読み方ができてしまうのは事実です。
それでもmiki先生にとっては、作画担当と一緒なら連載できる現実が「もっともっとワクワクできる未来」だった。その理由もまた、いくらでも指摘できます。

まず、まんが家は絵を描くと同時に物語を紡ぐ生業でもあること。
この点は(作中で殊更語られた部分ではありませんが)アマチュアストーリーテラーの端くれである身として真っ先に主張したいポイントで、前話においてV先生から助言を受けた結果、今話でストーリー面に一定の好評を受けたmiki先生は、即ち作画に並ぶもう半分の意義を保証され得ています例えばボク自身も自分の描いた物語に絵をつけたいなんて言ってくださる方がいたらそりゃ嬉しい

次に、前話ラストからくりすは一貫して「美姫が連載を掴んでこれからも寮にいられる結果」を理想とした行動を取り続けていたこと。
厳密にはどういう経緯で、どういう時系列でくりすが作画担当としての持ち込みに打って出たか不明瞭のまま、くりすの思いと意図だけが作中では「いろいろ極端」に示されていました。このやり口が功を奏し、ともすればくりすの行動が美姫の作画に関する難点を強調するだけになってしまったり、また描写の破綻が発生したりすることにより、シナリオ上の感動を削ぐ雑味になる危険性があったところを何とか回避しつつ、くりすとしても形振り構わない方法ではあるものの、自身が望む結果へと着地させた
この点については、以前「連載したい」宣言をしたかおす先生が、現状の力量に応じた暫定解=原作あり作品のスピンオフ枠を勝ち取った展開が類例になるでしょう。こみがはこういう落とし所を見出してくる巧さが実にニクい。

最後に、美姫自身が曰く「私なりのハッピーエンド」を迎えた中、連載が現実になる可能性を打ち出されて再び揺れ動いたこと。
先述の「ストーリーが評価されたのは素直に嬉しい」点はP37後半で、「悔いがなけれども悔やしさはあり、その結果をどこかで引き摺っていた」点はP35-8で窺えます。
またmiki先生自身、作画の不安定さについては自覚もありました。だからこそ作画担当がつく条件下なら連載できるとの判断に心を動かされ、その喜びが勝った。まんがを続けられるのが望みなのは、美姫にとっても言うまでもなく同じでした。
強いプロ意識をもつmiki先生からすれば自身は「半人前」だそうですが、その決着は今の実力を頭ごなしに否定せず、その上でより成長できる未来へと繋がった"Better is Better than Best"の現実的展開。

そしてそれは同時に、2人がまんがにおいても短所を補い合い長所を伸ばせる、無二のパートナーとなった決定的瞬間でした。

こんな感じで三本取られた一読者の感慨

こみがの魅力の一面である、明後日の方へフルスロットルなギャグの数々に注意を逸らされ、くりすと美姫がまんがにおいてもガッチリ噛み合うコンビであった描写を推察できずにいたのが不覚でならない。一周回って腹立つ(誉め言葉)。
ただ、こみがの物語があまりにもライブ感重視すぎて、各話の連続性に乏しい一面をもってもいた中、ほぼ完全に登場人物主導で節目節目を押さえられてもいる点は、もう一周回って素直にスゴいなとも。

閑話休題。美姫とくりすが共同でまんが家を執筆するパートナーとなったこの展開、純粋な作家談義で登場人物の絡みを見せる以上に作劇面でも筋が通っており、その点ボクは非常に感銘を受けました。
表現者としての物語と、登場人物同士の関係性描写を行う物語。その二者を直接結びつける形としては編かおのような「まんが家と編集のコンビ」が前例として存在した(もっと言えば、それがまさに物語のテーマと照合しても揺るぎのないCPとして、編かおへ執心であり続ける理由でもあった)ワケですが、今回はここにプラスして「共同で一作品を創出するまんが家コンビ」という、新たな在り方を確立してくれたように感じます。と書いていて思い出したんですがその先駆者には一応マカミカコンビがいたんですっけ……まあ今んとこ初登場回以降の印象ほぼないしなあ……

それと余談なんですが、前回から今回にかけて、プロとしての矜持を優先する美姫の意向をあまり見通せていなかった担当さんは、何だか間接的に編沢さんの敏腕ぶりを強調する形になってしまったのかな、と思わされた感もあり。
そろそろ編集者同士の絡みがもう少し見えてきてもいいんじゃなかろうか、なんて展望も若干あったり。かおす先生の担当として学びを得た編沢さんが後輩編集に何かしらの指導をしたりしたら個人的に満足

終わりに

こみがを読んでる時ってめちゃくちゃ疲れるんだよな、と常々思います。
これはアニメ開始直前に原作も本腰入れて読み始めたあの頃から、今に至るまでずっと感じ続けているところなんですが……
その疲れをこみが作中で最も生み出してくれるくりすが、ここまで美姫に献身した活躍を見せてくれようとは。
今回に関して言えば過去有数の、全く最高な疲れでした。

Written on 2020/12/19