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桜田ファミリー

- 『旅する海とアトリエ』3話 / 七瀬海着用の部屋着の文字

釣りを通じて人と人との輪は拡がっていく:4巻が出る今だからこそ『スローループ』を改めてご紹介

Category: 漫画 布教 感想

ちょっと引っ込み思案で天然な釣り少女・海凪ひより(旧姓:山川)と、人一倍快活で周りとの繋がりを大切にする少女・海凪小春。
過去に家族を亡くした共通点をもち、両親の再婚で姉妹となったこの2人を主人公とし、多様な釣り描写と、姉妹、親子、親友などの人間模様が丹念に描かれてきた『スローループ』も、もう4巻が発売です。
ボクにとっては1巻発売直前に触れて以来、2巻発売直後や各話感想など多くの機会に合わせて文章を書き連ねてきた本作ですが、4巻発売の今もその確固たる魅力を下地とした躍進は留まるところを知りません。
今回はそんな『スローループ』のこれまでを(3巻4巻メインで)お攫いしつつ、改めて布教記事にまとめてみます。

一方で正直言えば、1話がまさしく物語の導入として十二分な役割を果たしてくれているという、初見当時からの印象は今尚全く揺らいでいないのも事実。
なので……今『スローループ』をよく知らずにこの記事をご覧くださっている方、ぜひ以下の試し読みから1話をご覧ください。記事を最後まで一読してから読んでも、あるいはここで一度この記事を止めて先にご覧になっても大丈夫です。
本記事でもある程度ネタバレはしますが、2話3話と作品を読み進めていく時の感動がそれで減ることは決してないと断言できますので。

スローループ1話(きららWeb)
スローループ(COMIC FUZ)
スローループ(ニコニコ静画内 きららベース)

無論例によって、既読者の方にも楽しめるような記事を意識してもいます。
(ただし前述のようにこの記事は4巻掲載分のネタバレも含むため、本作を単行本でご覧になっている方はご注意ください)
そして『スローループ』がどんな作品であり、どのように魅力的なのかを、もっと世に広める一助となれば嬉しく思います。
それと蛇足ですが、これまで書いてきた布教記事も以下に。(過去の記事であるため詳細な設定などに関して間違いがあるかもしれない点はご了承ください)

素敵な家族であるために:『スローループ』=人×釣り×人
誰もが皆自分らしく手を繋げたら:『スローループ』2巻

スローループにおける「釣り」描写

1話でひよりと出会い、初めて直に実際の釣りを目撃した小春。
元々幼少期に病弱で、ゲームでは釣りを経験していると公言する小春は、フライフィッシングというカテゴリ(疑似餌として毛ばりが用いられる)を通じて釣りに精通しているひよりや、家が釣具店であり一定の知識を有しているひよりの幼馴染・恋の助けも借りつつどんどん釣りへとのめり込んできました。
その甲斐あってか特に3巻以降、次第に1人でも魚を釣り上げられる機会が出るようになります。

20話より

(1コマ目から緊張した顔を見せるのが小春、3コマ目で若干遠巻きからそれを眺めるのがひより)

イワナが不意に食いついてきて助けを求める間がなかった時は、上の画像のように自分1人の力だけで相対したり(20話、3巻収録)。
ちょっとした事情でひよりが小春についていられなかった時も、小春自身がそれまでに得た知識と技術でニジマスを釣り上げたり。
少しずつ釣りに慣れ、フライのメジャーでもある渓流釣りをやるなど、経験を増やして見事魚を釣っていく姿は最も大きな見どころに数えられます。

一方のひよりも、最初は実体験が海でのフライに偏っていた釣り人。
ひよりの父親・信也は腕利きの釣り人であり、地域の釣り人からも顔を知られていました。そんな亡き父親への憧れを胸に、ひよりはまだ見ぬ獲物を追い求めたり、これまで経験のなかった餌釣りに四苦八苦しつつ挑戦したりします。
また、家族ぐるみで交流のあった恋のお父さんから、曰く「信也にプレゼントしようと思ってたロッド」を渡されてじんとくる様子や、渓流釣りの心得を小春に語る時の神妙な面持ちなど、シリアス方向の描写もあれば、女性猟師・宮野楓との出会いをきっかけとして、昔の人が自然の中でどう暮らしていたかに思いを馳せるロマンティックな一面も見せるようになりました。 小春とともに時間を過ごすようになったことで、他の誰かと連れ立って釣りをする楽しさを知り、それに伴って増してきた表情の豊かさも本作の魅力の1つ。
個人的には18話(3巻収録)で見られる、「釣りたかっ……たっ!!!」と言うひよりの表情がとても可愛くてイチオシです。(筆者は登場人物皆にそれぞれ思い入れをもっていますが、その中でビジュアルも刺さっているひよりが他の登場人物以上にお気に入り)

尚、小春は元々釣りの経験がなかったため、ひよりや恋たちにより、度々小春(と読者)に向けた解説がなされてもいます。
従って釣りをよく知らない方も楽しめますので、ご安心を。かく言うボク自身も、釣りの知識はほとんどないに等しい状態でした。

スローループにおける「人間模様」の描写

連載初期の時点で「釣りと家族の物語」と銘打たれているほどに、本作とは切っても切り離せないもう1つの重要なテーマが「家族」に代表される人間模様。
1巻では姉妹になった小春とひよりが、新たに形成された家族(海凪家)での在り方を模索し始める様を。
2巻ではひより自ら勇気を出して「友達になりませんか」と伝えた少女・福元二葉とその姉・一花の姉妹や、二葉とその親友である藍子の為す関係性を見つめながら、親しい人物と関わり合う上での姿勢を。
3巻ではそれを踏まえ、改めて海凪姉妹や海凪家が新たに築き上げていく家族関係の一端を。
そして4巻では、ひより小春恋の3人が見せるようになった気安い絡みや、その中で尚も恋が抱えていたひよりへの引け目を。
それぞれたっぷりと描いていきます。

新たな家族での折り合いをつけるのに難儀していたひよりは、1巻収録のエピソードを通して一段階変化し、亡き父親の思い出を携えながら小春たちと共に歩んでいけるようになりました。
一方で小春はまだ、溌剌とした有り様の裏に陰をもっています。また恋も年齢不相応な達観ぶりを見せつつ、その内には前述通りひよりへの後ろめたさがあります。
登場人物がどのような生い立ちでこれまでを過ごして、どんな思いを抱いてきたのか。それらは台詞にももちろん、表情や振る舞いにも表出してくるモノ。
殊更に分かりやすさ重視での描写をせずとも、それら1つ1つを拾っていけば登場人物それぞれの生きてきた道筋やその心情が浮き彫りとなる。『スローループ』は、そんな素地ができた作品の例に漏れず、1人1人の細やかなディティールを描き出しています。

7話より

1巻の時点で感銘を受けたボクが、連載を追うようになってすぐの回(7話、2巻収録)。それがこんな冒頭から始まったもんだから初見時は(心打たれるより前に)えらく腰を抜かしました。これは家族を喪ってから小春の中に根深く残っている過去の1つです。

10話より

こちらはひよりが父親を喪う前の過去(10話、同じく2巻収録)。2巻全体のテーマに通じるポイントの1つであると同時に、小春と出会ってから今に至るまでひよりが見せてきたパーソナリティの間接的な裏打ちにもなっています。

更に、そんな細やかな描写の中でもとりわけ見逃せないのが、主要人物の親たちに関するシーンの数々。
本作が家族物語の側面をもつ以上、初見時からこの点は避けて通ってほしくないと感じていたポイントでしたが、初期から端々で描写されてきた海凪夫婦の今にも、3巻や4巻で少しだけ踏み込むことになりました。
況んや、家族が亡くなったことで望まぬ心情の変化を遂げてしまったのはひよりと小春だけではありません。これはひなた(ひよりの母親)や一誠(小春の父親)にも言える話。
一家団欒の中で感情的な顔を見せることもあったひなたは常に穏やかな笑顔でいようと心するようになったり、一誠は父と娘の家庭になってしまったことも影響してか心労を抱えるようになっていたり。
そんな親たちの苦悩があれば、ひなたには前夫亡き後も恋の母親が寄り添っていたこと、そして一方そのひなたが再婚前から一誠の助けになっていたことなどが示唆されてもいます。
いつか彼等彼女等の思いが明らかになってこそ、ありし日の思い出を大切にできるのと同じように、今の海凪家だからこそ為せる家族の形も実現するハズ。4人は今もまだ、その途上にいるのです。

「釣り」と「人間模様」を繋ぐもう1つの重要要素、「食(食卓)」

これは今まで作品外においては直接重要なテーマとして言及されたことがない(と記憶しているん)ですが、2つの主題を上手く繋げる裏テーマ(?)として食にまつわるシーンは欠かせません。
1話からして、釣り立てのメバルをすぐ捌いて小春に振る舞ったひよりは、その食べっぷりを目の当たりにし「お刺身以外の料理も教わっとくんだったな」と内心感じ、また小春のほうも「あなたが釣って!私が料理するの!」と口にしました。「釣り」と「人間模様」はこの時点で「料理」によりしっかりと繋げられています。
それが実践されるかの如く、作中で並ぶ料理はどれも美味しそうに、またそれを作る過程も(程度の差はあるものの)きっちり重要視された上で描かれてきました。
21話(3巻収録)ではついにひより自身が強い希望をもって料理にチャレンジしたり、などこの点でも見どころは多数。

そんな食描写の巧みさがとりわけ際立つ回として、まず上げられるのが前述の7話です。
7話では、1人夕食を取っていた過去を思い返しながら、ひよりと夕食を共にできる今を笑顔で過ごす小春の姿があります。
2人で釣りをしていた最中の出来事に端を発し、ちょっとした衝突もしながら、最終的には仲直りし2人で夕食を作る。
生い立ち上誰よりも人との繋がりを大事に思い、そこから切り離され得ることに強い抵抗感を示す小春は、心の底から今の食卓を喜んでいました。
あたたかな家の食卓を最も尊べる回の1つでもあると言って良いでしょう。

もう1つは25話(4巻収録)。
この回では高校時代からの友人である一花と楓が、釣り人としての楽しみに興じる姿を見せています。

25話より

(1コマ目からマウントを取ったほうが楓、2コマ目で売られた勝負を買うのが一花)

前半ではこんな風に意地を張り合って競うようにカワハギ釣りへと挑んでいた2人が……

25話より

後半ではそれを捌いて一緒に食べる。

「えてして時に競い合い 時にいがみ合い そして至高の喜びを分かち合える生き物」、それが釣り人だと語られるこのエピソード。
釣りの最中で背を向け合ってまで獲物の大きさと数を競う一方、食事を共にする中では同じ皿の料理をつつき合う。
心の底では互いへの敬意をもち、親しくしている関係性を描いたエピソードとして、非常に高精度なのがこの回です。

終わりに

過去も今も未来も等しく大切にしようとする家族の物語である『スローループ』。
そんな本作に根差す過去を端的に見せた扉絵が、以前ありました。

5話より

一方、現時点での最新話である29話(これ以降はおそらく5巻収録)の扉絵はこう。

29話より

2人が遂げてきた変化を語るには、様々な人たちの出会いを合わせて語るのも欠かせません。
そうして拡がってきたスローループの物語を、今表すのはまさにこれでしょう。
2巻の布教記事でも同じようなことを感じましたが、これまでの28話を読んだ上で29話の扉絵を見た時、色々な意味で感慨深くなりました。これからご覧になるという方も、4巻までに紡がれた28のエピソードを攫ってみた後この扉絵を改めて見れば、その感動も一入になること間違いなしです。

これが『スローループ』。

4巻表紙

改めて……
4巻が本日発売となった『スローループ』を、皆様どうぞご覧あれ。

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おまけ:既読者向けの小ネタ

さて。
スローループを既にご覧の方々は、ひよりに「父親たちのように無理を可能に変えてきた」ことへの憧れや「海や魚のこともっと知れる」ようになる目標を掲げているのと、また別の夢があるのをご存じでしょうか。

きらら展の書き下ろし漫画で語られていたその夢は、フライを題材とした著名なアメリカ映画の舞台であるモンタナ州を訪れること。
この映画は実在する作品『リバー・ランズ・スルー・イット』であり、フライと家族を扱ったドキュメンタリー映画としてはこちらも上質な作品となっています。
スローループをご覧の方にはオススメですので、ぜひご覧ください。

そしてスローループの(主要な)聖地は、現実として様々な事情からアメリカ出身と思われる方も多くいる街です。(実際に聖地を探訪した際も強く感じたことでした)
もしかしたらいつか作中でも、その夢に繋がる出会いがあるかもしれません。そんなところも非常に楽しみ。

Written on 2021/01/12