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Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.

- Hanlon's razor / Robert J. Hanlon

釣り人の現実と夢を見据える女の子:『スローループ』海凪ひよりの魅力を自分なりに見つめてみる

Category: 漫画

思い返せば初めて1話を見た時から、心はもう既に打ち抜かれていたのかもしれない。
はたまたもし記憶違いだったのだとしたら、どこかでその記憶を掏り替えてしまうほど強い印象を受けたのかもしれない。

まあでも、どっちだって良い話なんです。
『スローループ』主人公の海凪ひよりという人物に自分がいたく思い入れを抱いている今と比すれば、それ以外の思いは全て些細な "私情" 。

1巻表紙

久々に見るなあ、1巻表紙。既読の方はご存じと思いますが、ひよりは向かって左です。
こんな表紙から単行本が始まった『スローループ』において「海凪ひよりがどんな魅力をもっているのか」を、今回は至極個人的な視点に比重を置きながらまとめていきます。
個人的な視点と予め念を押すくらいなので、ご覧になる方も今回はその大部分を話半分で受け止めてくださって大丈夫です (もちろん作品の大筋に関わる部分が混じった場合は客観的な視点を厳守するつもり) 。

そもそもボーイッシュな外見の女の子キャラを比較的気に入りやすいタイプなため、初見の時点でひよりがまず一番気になるのは、ボク自身火を見るより明らかだったワケですが……
ベクトルは元よりその熱量に関して、ボク自身の中では他作品のボーイッシュな登場人物と一線を画すポイントが多々あります。

海凪ひよりのビジュアル

最も標準的な装いとして、当然ながら釣りに向いた服装をしている場面が多いひより。
1話見開きの扉絵から、1巻の表紙 (先に提示) から、最新39話に至るまで、この姿がない回のほうが少ないほどに見慣れた姿です。
この装いはボクの中で、基本にして完成形の位置づけとなっているほど印象深いモノ。
もう少し詳しく表現するなら、俗に言う「女の子らしさ」で彩られているとは決して感じられ得ない「ひよりの可愛さ」が、内から最も滲み出ているのがこの格好とするべきでしょうか。

参考に2話扉絵、新学期に先駆けて制服をまとった姿も見てみましょう。

2話扉絵

これもこれで可愛い……ですが普通のJKって感じ。
いやまあ、制服なんだから当たり前かも。
それでは13話扉絵、皆でテーマパークへ遊びに出かけた際の姿は——

13話より

いややっぱり可愛い……とは言えこれも年頃の女の子。

本編をご覧になっている方は理解できるであろう通り、ひよりの内面は言うまでもなく年頃の女の子と形容して差し支えありません。
が、昨今の漫画・アニメ・ラノベにおいて、年頃の女の子という存在は別段個性的でも稀でもなくありふれていますね。
ではひよりのもつ、ひより個人の魅力は何なのか。それは年頃の女の子でありながら釣りに興じる「振れ幅」にある、と言うほうが、寧ろ正確なのではないかと思われます。

海凪ひよりと「釣り」

さて、前述した「振れ幅」について。
ひよりは例えば4話にて、それまでの私服を可愛くないと暗に指摘されショックを受ける一幕さえあるような女の子。
一方ひよりは、現実問題本編でも当人から他の生命を摘み取る営みとして扱われ、2巻番外では狩りの一種だと明言されてすらいる釣りに、嬉々として探究心の下チャレンジを続けています。
これ、ギャップと表現したほうが分かりやすいかもしれません。しかしそう認識はしつつも、ボクとしては敢えてこの表現を覆さずに話を進めたい。

2巻範囲では女性が釣りに興じることへの偏見を交えながら、それらの営みに性差は無関係であると結論づけ、2巻の帯でも「女の子が釣りしたっていい」と宣言した本作。
実のところそういった価値観がわざわざはっきり提示されるのは、「女らしさ」にまつわる偏見が、(2巻における一連のエピソードに限定せずとも) まだまだ現実として根深く残っている問題の裏返しとも言えます。
(やや脱線しますが、本作で釣り人を指してしばしば用いられるのは「フライマン」「フライウーマン」。ある種のジェンダーフリーを見出しているボク自身の一側面を踏まえた際、こういった呼称もテーマ的にはあまり相応しくないように感じられるため、なるべく個人的な感想では「フライフィッシャー」で統一しています)
つまるところ、本作においても「釣り」の現実は、夢見がちな「女の子」から対立した概念に位置づけられている……と言えるのですが。

海凪ひよりという人物は、そこに女の子らしい夢物語を見出していました。

昔の人はもしかしたら 暖かい時期は魚を釣って食べて 寒くなったら動物を狩って肉を食べて その動物の毛で毛ばりを巻きながら春を待っていたのかもしれない そうやって自然に寄り添いながら 季節を行きていた人もいたのかも……

これは、猟師である宮野楓と18話で交友をもったひよりの談。
ひよりの中では明確に、釣りがそういった夢のようなロマンとも切り離せないほど結びついている。それを示してくれるのが、ここでひよりの口から語られた言葉だったワケです。
だからこそ、9話において「女の子が釣りやってるのってはずかしくないんですか?」と問いかけた福元二葉にとっても、楽しそうに釣りの話をするひよりの姿はさぞ眩しく映ったことでしょう。
今でもジェンダーに囚われがちな社会の中にあって、古めかしい価値観に則せば相反していたそのような要素を自然のうちに併存させたまま成長したのが、海凪ひよりという人物なのです。

海凪ひよりのビジュアル (2)

ここでひよりの外見に立ち返ってみましょう。

俗に言う「女の子らしさ」とも形容できる可愛さを内包していると同時に、古典的なジェンダー観で言えばそれと対立する「釣り」を趣味としている海凪ひより。
そんな彼女が「ダサい」と言われて傷心になる一面をもちながら、それでも釣りをするに当たって「女の子らし」くない、釣りに相応しい装いをするのは非常に自然なことなのです。

7話より

7話で見せたこの格好を、近しい読者の方は「作品として映えなさすぎる」と評していました。
あるいは小春も、ひよりの親友である恋も、普段の装いを作中で「可愛くない」扱いしました (これは作中視点である以上否定できないところが多分にありますが……) 。
一方、全てを含めて漫画として本作を捉える読者の視点で見るなら、これこそが「ひよりならではの『可愛さ』だ」と大手を振って宣伝したくなるポイントと言えます。

そして個人的な思い入れが最も大きい部分……ひよりが釣りのシークエンスで例外なく被っているキャスケット。
釣りの際被る帽子には、キャスティングなどで振り回した針が誤って頭へ刺さらないようにする意味がありますが、この髪型であり、この造形であるひよりが、このキャスケットを被った時、ボク自身最大の思い入れを抱くひよりのビジュアルとなったのだということに、とても深い感慨を抱いています。
(この辺りの逸話の出典は……敢えて本記事では明記せずにおきます。が、例えボク自身の作品を見るポリシースレスレのラインまで踏み込んででも、ひよりの思い入れを語る上では外し切れないのもまた事実)

海凪ひよりの主人公らしさ

こんな海凪ひよりという人物ですが、1巻の中では小春との出会いによりずっと引き摺り続けていた父親との過去を振り切り、思い出へと変えた「救われる立場」にありました。
それが2巻、3巻、4巻とエピソードを重ねるうち、前述のように自分の「好き」と自分が「女の子であること」について苦悩していた二葉を救い、そして同じように曰くつきの過去を経て今に至った恋や、小春の救いにもなりつつあります。
そして同時に、釣り人としての知識と技術を磨くことも欠かさず続けています (26話、31話など) 。

一番執心している登場人物がこうして確固たる振る舞いを可能としていくことに、喜ばない理由はありません。
これもまた、本作をご覧になっている方ならば理解していただけるハズ。

終わりに

改めて念を押しますが、本記事の記述は個人的な視点が多分に混じっています。
ボク自身、解釈の一致よりも不一致を楽しむ身ですので、是非ともこんな私的観点を間に受けず、ご自分の目と頭でその魅力を捉え直してみてください
(当然作品から読み解ける情報と明確に矛盾している場合は流石に苦言を呈すと思いますが……逆に本記事が誤情報を記載していた場合の指摘も遠慮なくどうぞ)

ともかく既読・未読に拘わらず (あまり未読者向けの記事ではないようにも感じつつ) 、本記事をご覧になった貴方が『スローループ』という漫画に触れる、あるいは触れ直してくださるよう、ボク自身願っています……

しかしこういう話も、もう何度ブログに書いたことやら。

Written on 2021/11/22