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「こんなに喜んでもらえるなら お刺身以外の料理ももっと教わっとくんだったな」

- 『スローループ』1話 / 海凪ひより

共有された信任と交錯する優しさ:『スローループ』41話

Category: 漫画 感想 考察

思いの外あっさりとした幕引きではあったものの、小春のオリジンを巡る道程は今回も濃密に描かれていきましたね。
主人公の片割れとして課せられた「その内心を慮る役割を小春に対してもきっちりと果たせているか」問題が浮き彫りになった形のひより。
また、そのひよりと対面を果たし「小春が心から楽しく過ごせているか」の確証を得ようとした土屋みやび。
そして当の小春……と、まだ核心に至る描写はあまりなかった印象ですが、視点の整理にはうってつけな回でした。
それでいて1つのエピソードとしても、あるいは一連の物語としても、その優れた部分はやはり折り紙つき。
個人個人で思惑にそれぞれ差異はあっても、そこに通底しているのは皆優しさである。そんな事実が改めて示されたスローループ41話の感想を今回もつらつらと。

前提として

今回、小春の性格を示すワードに「ピエロ」「ジョーカー」が用いられました。スローループにしては珍しくさほど上手くない例えだなと思いつつ、この二者を

と扱った上で話を進めていきます。

小春の側にいた土屋みやび

今回の土屋さんは、今の小春の笑顔に触れ、公園のシークエンスでは改めて小春と真っ直ぐ言葉を交し、ひとまず小春も楽しくやっているのだろうと判断できた様子。
ギャグに巻き込まれるなどして戸惑っている以外は漏れなく無表情だったその顔が、最後の最後で「楽しそうだった」と少しだけ綻んだ。それだけでも「一安心したし来て良かった」思いが汲み取れるでしょう。
件の公園においては (今回自体ひより視点に寄っていたこともあり) 旧交の中でどんなやり取りがあったのか明示されてはいないため、想像するしかない箇所であるものの、ひよりから見ても分かるほどだった「小春への心配」にも折り合いはつけられたようです。

ここらへん、ボク自身前回の感想でも「土屋さんのややアグレッシブな不安が (小春に直接聞いてもあまり効果がなさそうだとの判断から) ひよりに向かい『アンタに合わせて〜』発言として現れた」と見ていたので、全て引っ括めて非常に感慨深いところ。
更に今回最も嬉しかったポイントの1つが、「小春のことよろしくね」という言葉。これまでおそらく土屋さん自身は小春の抱える側面 (曰くピエロである問題) を、旧知の間柄である自分のみが当事者として保護できる身だと認識していた (だからひよりに対しても試すような発言をした) のだと思われますが、先の言葉は、ひよりも小春の弱さを共に保護してくれる人物だろうと土屋さん側から信任がなされた事実を示してくれています。
つまるところ、2人には「お互い小春を支えている」共通の意識ができた形。これはとりわけ、離れてからも小春の内心を案じていた土屋さんにとって大きな安心感があることでしょう。

小春の側にいる海凪ひより

では、その信任はどの辺りに由来しているのか?
ひよりと共にいる小春の表情や振る舞いは言うまでもないとして、もう1つ重要なポイントがあります。ひより自身が「恋ちゃんは怖くない」とすかさず強気で切り返した部分です。
土屋さんが恋ちゃんの何を指して「怖い」としたのか、それがどこまで本気だったのかを量るのは難しいところですが (先の返しによってすぐに前言撤回し謝意を口にした辺りがヒントか)、これもひよりを試すような発言の一部であったとしたら、どうでしょうか?
ここでのひよりは、自身にとっての大切な存在を悪しざまに言われた格好でした。それを黙って見過ごしたりしないのは、周りの人たちを心ない言動から守る意志として重要です。
小春と土屋さんが親交を深める発端になった出来事などは、少なくとも今の土屋さんから見た場合まさにそれ。
この返しがあったからこそ、アグレッシブな土屋さんもひよりを「大切な人のために明確な行動ができる人物だ」と認められたワケですね。
(ひより自身口に出してこそいないものの、幼馴染の恋ちゃんが小春のような立場だったらどうだろうかとすぐさま置き換えて考える辺り、客観的に見てもこの当事者意識は強いと評価できます)

いやあしかし、この場面は感情で見る分にも今回最も嬉しかったポイントのもう1つ。
ピエロと言われてそのままのピエロをイメージする天然純朴さに加え、自分へ向けられた問いには上手く答えられず揺れ動いても、幼馴染への誹謗は断固として許さない。
本当にひよりは素敵です。外見が可愛いだけでなく、芯はしっかりしている。それでこそ主人公。

一方で、小春がひよりに「合わせて無理してる」と考えたこともなかったのは少し笑いながらズッコケそうになった箇所でした。
つらい時に弱音も吐かないし悲しい時に泣きもしない我慢の姿勢とはかなり通じている部分だと思うんですが……どちらかと言えば「アンタに合わせて」のところが予想外だったのかな。まあ、空気を読んで周りに合わせているかどうかは傍観者の位置に立たないとなかなか見えてきませんものね。
いずれにせよ、問題の解決にはまず問題意識からという意味で今回ようやく気づきを得たのは欠くべからざる点ですし、今回を経て尚小春の根幹には全く辿り着かなかったので、問題の行方はここからでしょう。

小春はピエロかジョーカーか、はたまたそれとも

P40-1、土屋さんに安心感を与える材料となった小春の笑顔。
これがふんわりした微笑みではなく、満面の笑みのほうであったことは頭の片隅に置きつつ……

「小春はピエロ」であるとする土屋さん談。これは少なくとも読者からすれば容易に理解可能でしょう。
「小春はジョーカー」だとする恋ちゃん談。これが絶妙に掴みづらい。まあ確かに読者視点で見れば、(回想などから推察する限り) 中学生以前よりは滑稽なネタじみた (メタ視点で言えばギャグの一環としての) 言動をしている印象が強くあるかもしれません。
 恋ちゃん視点に沿った場合、「ひよりが悩むような事じゃないと思うよ」との発言がありました。初見時、これは「今の小春がピエロであるかどうかはひよりにとって他者の問題である (6話談の踏襲) 」「今の小春がピエロだなんて悩むまでもなくあり得ない (恋ちゃんなりに小春と接してきた見解) 」の2通りの意味にも受け取れそうであり、どちらなのだろうかと疑問をもって臨んでいましたが、「どっちかと言えば (ピエロより) ジョーカーな気がする」とした上での発言だったことを踏まえれば、文脈的に後者の意と見て良さそうです。

 まあ、人物評としてのピエロとジョーカーは両立される可能性もありますし、別段キーワードとして重要と言うほどでもありません。
 特にピエロのほうはボク個人としても小春が度々「自分のもつネガティブな思いには蓋をする」ためその内心はかなり窺いづらいと予々指摘しています (当の土屋さんでさえあまり深くは分かっていないかもしれません) し、これまで本作を読み解いてきた読者の方なら概ね同様の推察ができるものと思います。
 何にしても小春からひよりたちには、よりはっきりとした形で「新天地にて暮らす今」にまつわる意思表示がいつしかなされるでしょう。そしてそのキーパーソンは依然、ひより以上に明確な意志の下で、恋ちゃんと異なり他者に対し一定の介入も辞さず小春を気遣う、土屋みやびであるのも変わりません。
 彼女が小春の奥底をある程度分かっているのであれば、ひよりは主人公の役割を最低限既に果たしていたことになり、ひよりはいずれ土屋さんと同じようにその確証を得る方向に進んでいく。
 彼女が小春の奥底についてまだ分からないことが多いとだけでも分かっているのであれば、おそらくこれからが正念場となり、ひよりは土屋さんや恋ちゃんといった周りの手も借りながら、揃って小春の奥底をその身で以て知る方向に進んでいく。
 今回のエピソードは、本作において大きな節目の1つとして位置づけられることでしょう。土屋さんには是非とも小春たちが今住む地域を訪れてほしいところです。その時はきっと、協力者としての土屋さんが見られるハズ。

終わりに

ここまで書いてきた本記事の論旨とは全く関係ない余談ですが、今回のあやちゃんはとても可愛かったですね。
内面の豊かさがあまり表情には現れないタイプみたいだなーと思っていたらこの破壊力。

41話より

ボクはロリコンではなく、こういう何てことのない表情にノックアウトされがちな身です。

閑話休題……
作中でも大きな節目の1つとなった今回、区切り的にもちょうどいい回の印象ではありました。
実際、単行本未掲載のエピソードとしては今回が6話目。
これまで各巻は6話、7話、8話、7話、7話、とまとめられており、ここで単行本の一区切りとなる可能性もあります。
一方で、6巻発売が3月と既に5巻帯で発表されているため、ここで区切りとなるのはやや早い時期であり、5巻ほどでないにしても区切りは不透明な状況だったりします。

満を持して小春へ比重が置かれたエピソードが重なってきているスローループが、その一連の物語にどういう決着を見せてくるのか、今は良い意味で注目しつつその動向を楽しみたいところ。

Written on 2021/12/25